8年の終わり、その続き
マケインが、running mate(副大統領候補)を発表した。指名されたのはアラスカ州知事の Sarah Palinだった。彼女は44歳の若さで、非常にクリーンなイメージで知られている。何度も年齢の高さをボトルネックとして指摘されてきたマケインが、誕生日に発表したrunning mateが彼女だったことについて僕は「やられたなぁ」という印象。マケインの人選は、ヒラリー・クリントン支持層の票を回収するためと言われている。いずれにせよ、共和党としては初の女性副大統領候補指名らしい。
一方、少し前に発表されたオバマのrunning mateであるJoseph R. Biden Jr.上院議員については、僕はほとんど情報を持っていなかった。外交委員会に所属し、民主党の重鎮でオバマがよく指摘されている外交経験のなさを補足する経験豊かな人、また、オバマと政治的信条も近いらしいけど、僕個人としては守りの人選だなというイメージだった。なんせオバマのrunning mateの長ーいリストにはマケインの盟友であり、共和党において断固イラク戦争反対を貫いてきたChuck Hagel上院議員や、共和党支持者が大多数を占めるカンサス州において絶大な人気を誇る民主党女性知事、Kathleen Sebeliusなどの名前も挙がっていた。彼、彼女に比べればBidenはどうしても地味に見える。
もちろん、マケイン、オバマ共によく指摘されている自らのボトルネックを補った人選なわけだし、マケイン自身が白人、高齢というある意味典型的な候補なわけだから、彼がrunning mateの人選においてオバマより冒険しなきゃいけない理由はあるんだけど。
とにかく今は、8月中に大々的なアンチオバマ・キャンペーンがあったこと、またロシアのグルジア侵攻への対応(オバマは不運にもハワイで一週間の休暇中だった)の違いを通じて、両候補への支持が拮抗している状態。Running mateも出そろい、ついに大統領選は結果を大きく左右するといわれる両大統領候補と副大統領候補同士のディスカッションを含めた最後の戦いに突入していく。相変わらず欧米メディアは、援護射撃に忙しいご様子です。僕はやっぱり、「オバマがんばれ!!」
ところで、先日の党大会で民主党が徹底して強調していた点がある。それは、「Bush Thirdは要らない。Bushの12年は断固拒否しよう。」という点。マケインが伝統的保守層の支持を回収するために、ブッシュ寄りに主張を変更させてきたことを突く戦術らしい。実際、マケインを表紙に採用した今週のThe Economist誌でも、ブッシュ路線と距離を置き、共和党の重鎮でありながら亜流、一匹狼としての本来のマケインに帰ることが勝利へのカギだという指摘があった。共和党からすれば、「目の上のたんこぶ」。民主党からすれば「ただの道化」。イラク戦争を中心とした外交政策の失敗によって、世界中から皮肉にも悪の親玉とみなされ、史上最低レベルの支持率まで落ち込んだ彼の任期も、残すところあと4か月あまりとなった。そのブッシュ大統領の2期8年を見直そうという動きも各メディアで見られるようになった。ちょっと前の記事ですが、
Fareed Zakaria "What Bush Got Right"
http://www.newsweek.com/id/151731
Newsweek国際版編集長Zakariaによるカバーストーリー。彼の主張は明快。民主党、共和党、インディペンデント、外国人、火星人w...あらゆる人々から激情と怒りの対象となったブッシュ政権はすでにいない。非難と反対の的となった一連の外交政策は、彼の第一期目に集中しており、ブッシュ政権は公言していないものの近年明らかに路線を修正・変更してきているということ。論点は以下。
*政権内の人事・パワーバランスの変化
世銀総裁に最初に選ばれたのはPaul Wolfowitz。このひとはネオコンと呼ばれた国際単独主義、介入路線を好むブッシュの側近グループにおける代表的な存在で、経済学のバックグラウンドが一切なかった。しかし、交際していた女性の人事問題でWolfowitzが辞任を余儀なくされてから、優秀・キレ者として知られる元USTRのRobert Zoellickを総裁に任命。政権全体としては、タカ派と目されるDick Cheney副大統領から、運営の中心が明らかにCondoleezza Rice, Robert Gates, Stephen HadleyそしてHank Paulsonなどのプラグマティストに移った。Rice, Gatesを主軸とする外交は明らかに現実主義、対話重視の穏健な路線にシフトしている。(たとえオバマが政権をとっても、Robert Gatesを残留させるべきだという声は強い。)
*国際援助における貢献
政権についた当初、ブッシュ大統領は伝統的な保守らしく、国際援助には興味がないと目されていた。実際最初の2年、HIV/AIDS支援に投入された金額は10億ドルに満たなかったが、今年度は60億ドルを超え、その多くがアフリカに投入される。PEPFAR(AIDS防止のための大統領緊急計画)は超党派の支持を得て、成功した。これら一連の政策は、U2のBonoなどを含む人々から異例の賞賛をうけた。彼らいわく、"George Bush has done much more for Africa than Bill Clinton ever did."
*中印との現実主義的外交
大統領選の最中、ブッシュはCNNのLarry Kingとの対談で、中国との関係をClinton政権の"a strategic partnership"から、"competitor"へ再定義するとコメント。この時点では、中国に対して対立的アプローチをとると看做され、ネオコンやペンタゴンと同調するイメージが持たれていた。しかし、2001年4月、米軍偵察機と中国戦闘機の衝突事件においては、タカ派の批判を跳ね返して深い謝罪を表明した書簡を送った。その後も、中国の重要性を明らかに認識したうえで中国・台湾関係においてバランスのとれた外交を展開。先日のオリンピックにおいても、欧州各国と異なり(また大統領のボイコットを訴えた民主党のPelosi下院議長とも異なり)、開会式に出席し、人権問題については対話を通じて訴えるという現実主義的な路線を採ったことは記憶に新しい。また、21世紀のもう一つの大国と目されるインドについても、核の民間利用における協調によって新たな局面を開いた。これは、将来のアジアにおけるパラーバランスの安定に大きく貢献すると思われる。
*総括
これらの主張は、ブッシュ政権を擁護するものではない。ブッシュ政権は初期に歴史的なミスをおかし、アメリカに莫大なコストを負わせる結果となった。最も大きな負の遺産の一つが、アメリカはイスラム世界に対立するというイメージを残し続けていること。これは国の安全を大きく低下させた。国内政策においても、ネガティブな側面があった。彼はGDPの2.5%の財政黒字を受け継いだのにもかかわらず現在は3%の赤字となっており、歴史上、最も財政に無責任な大統領となった。しかし、それにも関わらず彼の政策すべてを批判し、覆すことは全く賢明とは言えない。次の大統領は2001年からではなく、2008年の世界をそのままの形で受け継がなければならない。ブッシュ大統領の最大の失敗は、クリントン路線を全面的に否定したことである。次の大統領がなすべきことは、ブッシュ大統領の路線を盲目的に否定することではなく、彼の遺産を冷静に検証し、活かしていくことだ。
もちろん、マケイン、オバマ共に少なくともポーズとしては、ブッシュ路線を否定し対照的な政策を採用することが選挙活動中の、あるいは政権運営初期の中心になるかもしれない。だけど実際の政権運営において、世間のイメージに流されることなくブッシュを引き継ごうというZakariaの主張はとてもまともだと思う。
国際政治雑誌として著名なForeign Policy Magazineにおいても、最新号はブッシュを表紙に起用して彼の外交政策について総括を行っています。「歴史は多くの人がそう思うほど、イラク戦争をネガティブに記録しないだろう」というこれまたセンセーショナルなセンテンスが印象に残ります。興味のある人は、ぜひご一読を。僕もまだちゃんと読んでません。これら一連のブッシュ再評価の波が、共和党マケインにとって多少の追い風になる部分はあるのかもしれないね。
少なくとも、子ブッシュ大統領は激情をぶつけやすく、そして風刺画的に描かれやすい大統領だったことは間違いないと思う。以前どこかで、「オバマが大統領になったら、ワイドショーで大統領に関連するブラックジョークが言いにくくなる。」みたいなコメントを読んだ気がするけど、クリーンで、ともすれば超然としているようにも見えるオバマと比較すれば、ブッシュは明らかにお茶の間で親しまれやすい人であった。僕はマイケル・ムーアの映画なんかもわりと好きだけど、その反面と言っていいのか、あるいはムーアのせいなのか、ブッシュにはなんとも形容しがたい親近感、親しみのようなものを持っている。
8月7日。ブッシュ大統領は中国を除いたアジア外遊の最後の国としてタイを訪れた。アメリカがないがしろにしてきたと非難される東南アジア、ASEANの主軸国への最後の最後の訪問は、明らかに次期政権の対アジア・シフトにつながるものだと思われる。
アジア外交を総括したブッシュ大統領のタイでのスピーチ。http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/08/20080807-8.html
スピーチの中盤にこんなやりとりが。
"I've also worked to develop strong personal relationships with our allies' elected leaders. Who could ever forget the trip to Elvis's place with Prime Minister Koizumi? (Laughter.) I certainly will never forget it. (Laughter.) I don't think a lot of people in Memphis, Tennessee will ever forget it either."
こんな一節を単純にほほえましく思ってしまう僕です。もちろん、敵も多く作ったし、いくつかの外交政策は完全なmessだったけど、愛嬌はピカ一だったブッシュ氏。彼の任期も残り4か月。僕も卒業まで残り5か月くらい。お互い最後までがんばりましょうw。
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